この数は生活習慣病の代表格であり「国民病」と言われる糖尿病よりも多くなっています。
2005年には1330万人だった国内の患者数は2015年に1480万人、その数は今も増加し続けており、医学雑誌「ランセット」の2020年の報告によると現在の患者数は推計2100万人とも言われており、その最大の原因は高齢化にあると考えられている。
腎臓は血液を濾過して老廃物を体外に排泄する働きをします。これは生命維持に欠かせない機能ですが、加齢と共にその機能は衰えてきます。
(*慢性腎臓病とは腎臓の機能が正常の60%以下に低下している、または尿から
蛋白が出るなどの腎障害が3ヶ月以上持続した状態をいいます。)
罹患率は50代から増え始め、60代では15%、70代では30%、80代に至ると約半数が当てはまります。つまり、年を重ねることそのものが発症リスクを上げるのです。
この傾向に拍車をかけるのが、コロナ禍における巣ごもり生活です。
大阪大学の研究グループが2006年から12年にわたって行った追跡調査によれば、デスクワークが多い業務体系の人はそうでない人よりも腎臓病の症状の1つである「たんぱく尿」が出るリスクが1.35倍高くなっています。
実際、筑波大学に通院する慢性腎臓病患者の1日の活動量を調査したところ、1日の中で最も多く使われている時間は「座っている時間:37%」、次いで「ベッドなどで眠っている時間を指す臥床時間:34%」となっていました。1日の3分の2以上の時間が動かない生活となっていたのです。
しかも、有酸素運動のような、体に負荷がかかる動きに至ってはたった4%で、1日1時間もありませんでした。
もちろん体調が悪いゆえに座っている時間が長い人もいましたが、“座りすぎ”が発症リスクを上げることは間違いありません。
高血圧の日本人女性は特に注意
座りすぎ生活と並んで腎臓病のリスクを上げるのは、高血圧や糖尿病、肥満などの疾患が考えられます。
腎臓は細かい血管が塊になって成り立っている臓器です。
糖尿病や高血圧などの疾患によって細い血管は硬化が進み、その機能も落ちてしまいます。
このため、慢性腎臓病の患者が心筋梗塞や脳卒中を併発して、お亡くなりになるというケースも非常に多いです。
2016年に中国の北京大学が過去に世界中で行われた血圧に関する7つの研究を分析した論文によれば、収縮期の血圧が120~139mmHg、拡張期の血圧が80~89mmHgの(正常高値レベル)の人の慢性腎臓病の発症リスクは、正常値の人に比べて1.28倍高くなることがわかりました。
しかもこの傾向は、東アジア人女性に特に強くみられていました。
つまり日本人女性は、軽度であっても腎臓病リスクが上がりやすいと考えられます。
また、生理痛や頭痛の際に服用する鎮痛剤も腎機能の低下を招く要因になることがわかっています。
2012年に厚労省が発表した『厚生労働科学研究』によると、「薬剤性腎障害」の原因となる割合は鎮痛剤が最も高く、抗がん剤や抗菌剤に比べてもその割合は高くなっています。
生理痛を抑えるために服用する痛み止め、そして、コロナ対策の巣ごもり生活が腎機能低下のリスクをはらんでいること考えると、なんともいえない気持ちになります。
昨年の5月に俳優の佐野史郎さんが腎機能障害により連続ドラマを降板されていました。
「このたび、思いもよらぬ腎臓機能障害の発見により、急遽入院せざるをえない状況となり・・・」とニュースにもなっていました
佐野さんに腎機能低下の自覚症状はまったくなく、発見に至ったきっかけは発熱により新型コロナウイルスの罹患を疑い、健診を受けたこととのことでした。
PCR検査は陰性だったものの腎臓機能障害があると判明したとのこと。
腎臓病が厄介なのは、初期の段階では自覚症状がほとんどないことです。
そのため腎臓は、肝臓と同様に“沈黙の臓器”と呼ばれます。
病状が進行し、腎臓の機能が正常な状態の3分の1以上低下した『腎不全』になると、食欲不振や吐き気、手足や顔のむくみ、血圧の上昇、夜間の排尿の回数の増加といった症状が表れることがあります。
さらに進行すると貧血や疲労感、息切れなども起きます。
しかしこの段階で気がついても、すでに透析治療が必要な状態になっていることも少なくありません。
透析の医療費は年間500万円程度かかり、大半は公費で賄われるが、個人での負担も大きく、自己負担額の平均は、月1万~2万円にものぼる。
血液透析であれば週に2~3回、一回約4時間程度の治療を一生続けなければならなりません。
大袈裟かもしれませんが、人生が変わります。
日常生活への制限に加えて、腎機能の低下はほかの疾患を引き起こす可能性があります。
食事・水分制限はもちろん、シャントという血管の処置が必要になります。そして透析中は低血圧となり強い倦怠感が伴うこともあります。また、関節の痛みを伴う「痛風」なども併発する可能性があります。
痛風の原因となる尿酸の7割は腎臓から排出されます。
つまり、腎臓の働きが悪く排泄機能が低下すれば、尿酸が体内に停滞するようになり、尿酸値が上がる。
その結果、痛風になるリスクが上昇すると考えられます。
(*尿酸はプリン体が分解されてできる物質で、血液中の濃度が上昇すると、関節にたまって結晶化する。それを白血球が処理する際に炎症を起こし、痛みが生じる。)
日本腎臓学会の発表によれば、慢性腎臓病で透析を行う人の新型コロナウイルス感染による死亡率は一般の人より6倍も高いと報告されています。
これは腎機能の低下に伴い、免疫力も落ちていることなどが理由に挙げられます。
コロナは気管支や肺だけでなく、腎臓にも影響を及ぼすことが知られています。
肺炎が起こると血液中の酸素濃度が下がるだけでなく、血圧が低下して腎臓への血流が減り、腎機能が急速に低下する『急性腎障害』が起こりやすい。
コロナは血管の内皮細胞に炎症を起こすため、血管が多く集まっている腎臓がダメージを受けやすいことや、腎臓内部の尿をつくる『尿細管』に感染することもわかってきています。
塩分とタンパク質に注意
知らないうちに忍び寄る腎臓病。その魔の手を振り払うためにはどうすべきなのか。第一歩として、まず検診を受けることが必要です。
職場や各自治体が住民に対し行っている一般的な健康診断でも、腎機能をチェックすることができます。
注目するのは、血液検査による『血清クレアチニン値』と尿検査による『尿たんぱく』です。
クレアチニンは筋肉を動かしてエネルギーを使ったときに発生するもので、血液中のクレアチニンは腎臓で濾過され、尿として排泄されます。
血液中のクレアチニン値が高いということは、それだけ腎臓の働きが悪くなっていることを示しています。
健診ではクレアチニン値をもとに、腎臓機能を表す値である『推算糸球体濾過量(eGFR)』が算出されます。
健康な腎臓は1分間に90mL以上の血液を濾過しているので、eGFRが90以上なら正常。60を割ったら危険信号です。
尿たんぱく検査は、尿の中に基準値以上のたんぱくが含まれているか否かを判断する検査です。
1度の検査では正しい判定が出ないこともあるため、異常があれば、3か月後に再検査することを推奨します。
たんぱく質から生成されるアミノ酸は、排出時に腎臓の強い働きを必要とします。多く取り入れすぎると腎臓を疲弊させる原因になるので、人工的なたんぱく質であるプロテインには特に注意が必要です。
実際、当院に来られているクライアントで急に腎臓病に関する数値が上がってしまった方にお話を聞いたら、スポーツクラブですすめられたプロテインをのみ始めたというケースがありました。その方には「勿体無いですが、体のためを思うなら使用を中止してください」とお伝えしました。
食事に気をつけつつ、運動も欠かさず取り組みたい。(なかなか難しいですが・・・)
運動時間の目安は、1週間あたり2時間30分以上。
ウオーキングなら、30分を週5回行えばクリアです。
階段の上り下りなど、日常生活の中で取り入れる形でも構いません。
人生100年時代、あなたの健康長寿に腎臓の機能は大きく影響しています。
Comentarios